JR西日本は、落石による脱線の影響で運転を取り止めている芸備線の東城駅〜備後落合駅間について、2023年7月下旬頃の運転再開を目指して落石対策工事などの復旧作業を進めます。
乗客おらずケガ人なし
事故は2023年3月23日(木)19:23頃、広島県庄原市東城町竹森の備後八幡駅〜内名駅間で発生しました。新見駅18:25発の備後落合駅行普通列車の運転士がこの区間を25km/hで走行中、斜面からの落石を確認しました。非常ブレーキを使用したものの間に合わず、1両編成の列車は線路の間に落ちた石に接触し、5m行き過ぎて停車しました。
この衝撃の弾みにより前方台車の2軸目までが脱輪しましたが、列車に乗客はおらず、運転士にケガはなかったとのことです。以後、芸備線は東城駅〜備後落合駅間で運転見合わせが続いています。
国土交通省の運輸安全委員会は、現地に事故調査官を派遣して調査・分析を行い、原因の究明を行っています。JR西日本でも落石の原因となった斜面を調査し、2023年5月下旬の運転再開を目指して線路周辺の安全確保を完了させる予定でした(芸備線の運転見合わせ区間周辺の路線図、落石防止対策の工法種類と役割など詳細は下の図表を参照)。
JR西日本で最も経営厳しい区間
2023年5月9日(火)にJR西日本が報告した進捗状況によると、専門家による現地調査の結果、発生箇所では落石対策工事の実施が必要で、当初の予定通りの復旧ができないことが判明しました。東城駅〜備後落合駅間の運転再開見込みは7月下旬頃に変更され、これに間に合うよう復旧作業が進められます。
今回の落石対策は3通りの工法を組み合わせて実施されます。岩石が露出した箇所では、落石の落下エネルギーを吸収するため、上部が開口したポケット式のネットを張る「ポケット式落石防護網」が施工されます。
大型の浮石や転石の落下防止対策として、格子状にしたワイヤーロープを用いて斜面に固定する「ワイヤーロープ工」が用いられます。また、小さな転石が周囲にある浮石に厚みのあるネットをかぶせ、岩全体に均等に張力をかける「ワイヤーネット工」も併用されます。
なお、運休区間の東城駅〜備後落合駅間では引き続き、バスまたはタクシーによる芸備線の代行輸送が実施されます。1日3往復の列車ダイヤを基準に設定されますが、ダイヤ通りに運行できない可能性もあるとしています。
広島・岡山県境付近の芸備線では、2020年3月9日にも脱線事故が発生しています。東城駅〜備後八幡駅間の斜面から線路内に流入した土砂に快速列車が乗り上げ横転したというもので、このときも乗客は乗っておらず、運転士にケガはありませんでした。
JR西日本が情報開示している2021年度のローカル線利用状況によると、芸備線の東城駅〜備後落合駅間における1日あたりの平均通過人員は13人です。100円の収入を得るためにかかる費用を示す営業係数は23,687と、同社管内の全線区の中でも最大値で、経営状況が非常に厳しい区間となっています。