「かんぱち・いちろく」 久大線で来春デビュー 路線開通に縁深い二人の名前を列車名に

JR九州は、2024年春から運行開始する新しいD&S列車(観光列車)の列車名について、久大本線(ゆふ高原線)の開通に縁が深い二人の人物名に由来する特急「かんぱち・いちろく」に決定しました。

2024年春に運行開始する新たなD&S列車、特急「かんぱち・いちろく」に改造される前のJR九州キハ47形気動車「いさぶろう・しんぺい」(画像提供:JR九州)
2024年春に運行開始する新たなD&S列車、特急「かんぱち・いちろく」に改造される前のJR九州キハ47形気動車「いさぶろう・しんぺい」(画像提供:JR九州)

「いさぶろう・しんぺい」+ビュッフェ車両

JRグループの「福岡・大分デスティネーションキャンペーン」の開催に合わせ、博多駅から由布院駅を経由して別府駅までを約5時間かけて走破するD&S列車がデビューします。コンセプトは「ゆふ高原線の風土を感じる列車」。ビュッフェも備えた全席グリーン席の車内では、窓から眺める雄大な自然風景や、沿線の食材を中心としたお弁当が旅を贅沢に彩ります。

肥薩線で特急「いさぶろう・しんぺい」として活躍したキハ47形2両がベースで、すべてグリーン座席に改造されます。その中間に、ローカル線区向けのキハ125形をビュッフェに改造して挟み、3両編成で運行します。各車両とも2023年10月上旬に小倉総合車両センター(北九州市)に入場し、改造工事を受けています。デザイナーには鹿児島市を拠点とする会社、IFOOが初めて起用されています。

「かんぱち・いちろく」が走る久大本線は久留米駅と大分駅を結ぶ141.5kmの路線で、全線開通したのは1934年(昭和9年)です。その実現やルートの決定に深く関わったのが麻生観八(あそうかんぱち)氏と衞藤一六(えとういちろく)氏で、列車名の由来となっています。

(新たなD&S列車、特急「かんぱち・いちろく」の列車名由来、運行ルート、使用車両など詳細は下の図表を参照)

【路線図で解説】新たなD&S列車、特急「かんぱち・いちろく」の列車名由来、運行ルート、使用車両

久大線の歴史を語る上で欠かせない「観八」「一六」

1865年(慶応元年)、草野家の五男として大分県日田に生まれた観八ですが、家の破産に見舞われ、わずか15歳で麻生家の養子に入ります。麻生家の先代は、現在の九重町で酒造場「舟来屋(ふなこや)」(現在の八鹿酒造)を興したものの、百姓一揆や天災など度重なる危機により酒造の権利を手放していました。観八は実家の苦悩の経験を活かし、麻生家三代目として20歳で舟来屋を再興しました。

先代が果たせなかった農業水利施設を完成させるなど公共事業にも熱心で、当時の玖珠郡会議長として久大線の敷設運動も主導しました。その成果により、久大線は大分駅から段階的に線路を延ばし、1929年(昭和4年)に地元を通る豊後森駅まで延伸開業しました。その前年に他界し、念願の鉄道開通は見届けられなかった観八でしたが、偉業は地域に認められ、恵良駅には銅像が建てられています。

その久大線ですが、湯平駅から西へ伸びるはずの線路が大きくカーブしています。これには、1870年(明治3年)に北由布村の溝口家に生まれ、21歳で衞藤家の養子となった一六が関与しています。旧大分県農工銀行の常務取締役となった一六は、久大線を当時の南由布村と北由布村に通すよう誘致活動を行い、1925年(大正14年)、カーブ部分に南由布駅と北由布駅(現在の由布院駅)が開業しました。

これに並行して北由布村は、駅周辺の道路整備を進めて役場や小学校を建設しました。その後、住宅や商店も集まって村は大きく発展し、交通の便の良さを活かして大分を代表する温泉地「湯布院」へと成長しました。農工銀行の頭取の座を掴んだ一六の功績は地元で大きく讃えられ、久大線の特徴的な線形は「一六線(一六曲がり)」と呼ばれるようになりました。

列車名は方向によって変わり、博多駅から由布院駅・別府駅行は特急「かんぱち」号、別府駅・由布院駅からの博多駅行は特急「いちろく」号として運転します。1日につきいずれか片道1便のみの運行で、木曜日は運休となります。

ちなみに、観八が久大線敷設を陳情した当時の鉄道院総裁は後藤新平で、改造前の車両に付けられていた列車名「いさぶろう・しんぺい」の由来とされる人物の一人です。D&S列車は「デザイン」と「ストーリー」の頭文字を取ったJR九州の造語です。唯一無二の車両デザインに加え、地域や路線の歴史を紐解くストーリーを重視する同社のこだわりは、今回の列車名にも引き継がれています。

(参考)八鹿酒造Webサイト「八鹿の歴史」

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