JR西日本は、山陰・山陽の両エリアを結ぶ特急「やくも」への投入を予定している新型車両「273系特急形直流電車」について、車両デザインを決定しました。
座席模様は「亀甲」「麻の葉」
2018年に策定した同社グループの中期経営計画では、地域との共生を深めるため、新幹線を基軸とした広域鉄道ネットワークの磨き上げを進める方針が示されました。現在、岡山駅〜出雲市駅間には、国鉄時代の1980年代に製造された381系車両を使用した「やくも」が運行しています。車両の老朽化が進む中、新幹線のフィーダー特急としてのサービスレベルや輸送品質の向上が求められており、2024年春以降に投入する新型車両へ置き換えがすでに決まっていました。
車両デザインのコンセプトとして、「沿線の風景に響き自然に映える車体」「山陰の我が家のようにくつろげる温もりのある車内」が掲げられました。エクステリアは、山陰・伯備線沿線の自然や歴史、文化を象徴するシンボルカラー「やくもブロンズ」を中心としたデザインです。伝統のヘッドマークを継承しながら、「モダンに八雲立つ」姿へと磨き上げられたシンボルマークとロゴが前面と側面に描かれます。
グリーン車の座席は2+1列配置で、空間が広く感じられる黄色をベースに、一等車らしく、富と長寿の象徴とされる亀の甲羅をイメージした「積石亀甲」模様があしらわれています。米子市にある亀甲神社には亀にまつわる伝説があることや、「亀嵩(かめだけ)」の地名があるなど、山陰の文化や風土も参考にしたとのことです。また、普通車の座席は沿線の山々をイメージした緑色ベースで、古来から神事に用いられ、人を守る魔除けの意味もある「麻の葉」柄が描かれています。
さらに、鉄道車両の特性を活かした2・4名用の「グループ向け座席」が新たに設けられます。大きな窓からの車窓が楽しめるよう、向かい合える座席構成となっており、シートはフラットにすることも可能です。くつろぎを演出するため、大型テーブルと緩やかな仕切りが設置されており、適度なプライベート性が感じられる空間となっています(273系「やくも」のデザインイメージなど詳細は下の図表を参照)。
最新「振り子方式」で乗り心地向上
今回の「やくも」のデザインは、デザイナーの川西康之さんが代表を務めるイチバンセン(本社:東京都渋谷区)と、製造メーカーである近畿車輛(本社:大阪府東大阪市)のデザイン室が監修を担当しました。川西さんはJR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」や、2024年秋に登場する新たな観光列車の車両デザインも手掛けています。
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現行「やくも」381系には、山間部を高速で走行する目的で、カーブに差し掛かると車体を傾斜させる仕組みを持つ「振り子方式」が導入されています。273系には国内初の最新技術「車上型の制御付自然振り子方式」が搭載され、現行車両で課題とされていた乗り心地の改善が図られます。JR西日本と鉄道総合技術研究所(東京都国分寺市)、川崎車両(本社:神戸市)が3者で共同開発した技術で、車上の曲線データと走行地点のデータを連続して照合することにより、車体の傾斜が適切なタイミングで行えるようなるとのことです。
利便性向上のため、車内にはWi-Fiや全席コンセント、大型荷物スペースが設置されます。バリアフリー面では、車いすスペースの拡大や多目的スペースの設置など、幅広い利用層を意識した設備が充実します。安全性や安定性、環境負荷の軽減も追求した273系「やくも」は今後、計44両(11編成)が製造され、2024年春以降に営業運転を開始する予定です。