石川県内で2つの鉄道路線を運営している北陸鉄道は2023年1月31日(火)、鉄道事業の上限運賃を約11%値上げする認可申請を国土交通省北陸信越運輸局に提出しました。
初乗り160円→200円に
同社は2019年10月に運賃改定を実施し、ワンマン運転化や駅の無人化などで経費削減を図ってきましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で生活様式が変化し、2020年度の鉄道輸送人員は前年度から約3割減少しました。2021年度はわずかに回復しましたが、コロナ前の状況には戻っていません。
同社の鉄道事業の収支は毎年度1億円を超える損失を計上しており、赤字が常態化しています。2022年度には、約18億円の資本金を中小企業税制が適用される1億円にまで減資し、株主優待制度を一部廃止するなど、経営の合理化も進めています。安全施設の老朽化対策は国や県、沿線市町の支援を受けており、それでも収支均衡には至らないことから、バス事業など内部からの補助を行いながら事業を継続しているのが現状です。
今後も沿線人口の減少や高齢化が進み、車両や施設の更新や電力費高騰による経費増加が見込まれ、同社は「大変厳しい経営環境が続く」と想定しています。こうした中、サービスを持続的に提供するため、運賃改定の申請を行うことにしたと説明しています。
上限運賃の変更には鉄道事業者から国への申請が必要で、認可後に利用者から収受する「実施運賃」を上限運賃の範囲内で定め、届出を行います。今回、申請された上限運賃の平均改定率は普通運賃が11.3%、通勤・通学定期運賃が11.0%です。北陸鉄道の実施運賃は上限運賃よりも安価に設定されている区間があり、現行の普通運賃に一律40円加算した額が新しい実施運賃となる予定です。初乗り運賃は、現行の160円から200円に値上げされます。なお、運賃改定の実施時期については調整中です。
北陸鉄道は運賃改定により、2026年度までの3年間合計で約1億4千万円の運賃収入増を見込んでいます。今後、レールや信号保安設備の更新、車両更新など安全性・快適性向上のための投資に充当します。また、乗車券類のキャッシュレス化や車両内の無料Wi-Fi導入といった利用促進策にも取り組みます(改定前後の上限運賃比較、主な区間の運賃など詳細は下の図表を参照)。
地元自治体は石川線のバス転換も検討
ところで、金沢市を含む4市2町は、存続の危機に立たされている公共交通を維持する目的で「石川中央都市圏地域公共交通協議会」を設置し、広域的な地域公共交通計画を定めることを目指しています。
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2022年5月に行われた第1回協議会において北陸鉄道は、内部補助により鉄道事業を支える現行のスキームがコロナ禍により成り立たなくなっており、民間努力での鉄道線持続が困難であると表明しました。その上で、安全に関わる設備面の維持管理を地方自治体が担い、同社は運行サービスに専念する「上下分離方式」への移行を要望しました。
協議会は、北陸鉄道の石川線・浅野川線は利用が減少しているものの、朝の通勤・通学時に一定の利用があり、大量輸送機関として必要であることを確認しています。今後も持続するためには、同社が求めている上下分離方式の導入も含め、行政として何らかの対応策を検討し、2023年度中に今後のあり方を決める必要があるとしています。
一方、北陸鉄道は両線とも鉄道としての存続を望んでいますが、石川線については輸送人員が特に減少しています。協議会は同線のバス転換やBRT(バス高速輸送システム)化も選択肢として検討しており、その場合の課題や需要の変化について調査を行っています。