JR東海は、ワンマン列車での運賃収受をスムーズに行うための実証実験として、飯田線の長野県区間で「PayPay」アプリを活用したQRコード決済を導入します。
QR読み取り→運賃表の金額入力
対象は天竜峡駅~辰野駅間を運転するワンマン列車で、2025年8月1日(金)から10月31日(金)までQRコード決済を試行的に導入し、乗客の利便性や乗務員の業務、列車運行への影響を調査します。両端駅を除く川路駅~宮木駅間の各駅で降車する際の車内での運賃収受が対象で、運転士に申告することによりPayPayアプリで支払うことができます。ただし、車掌が乗務するツーマン列車では従来通り現金支払いのみの対応で、駅係員が配置されている飯田駅と伊那市駅で下車する場合も対象外となります。
決済方法はユーザスキャン方式で、運転士が提示したQRコードをアプリで読み取り、運賃表示器に表示されている乗車駅からの運賃額をアプリに入力します。運転士が画面を確認した後に「支払う」ボタンをタップし、完了画面を提示すると運賃支払い完了です。これまでと同様に現金払いも可能で、通信障害などでQR決済できない場合は現金で支払うことになります。
交通系ICの非対応区間
飯田線のツーマン列車では車掌が走行中の車内を巡回し、途中駅から乗車した利用者から機動的にに運賃を収受して車内補充券を発行しています。それができないワンマン列車では、駅によって運賃収受が集中することが遅れの原因となっていると思われ、QR決済が支払い時間の短縮にどの程度寄与できるかがポイントとなります。実証により利用者からQR決済の利便性が評価された場合、ワンマン列車以外にも対応を拡大するのか、あるいはワンマン列車の比率を増やすのかといった今後の施策も注目されます。
一方で、運賃決済手段としては交通系ICカードの活用も考えられますが、飯田線の「TOICA」利用エリアは愛知県区間の豊橋駅~本長篠駅間に限られ、拡大にはハードルが高そうです。PayPayは登録者数7千万人超という普及率に加え、ユーザスキャン方式なら導入時の設備投資が抑えられることから、すでに長良川鉄道など交通事業者への導入実績もあります。TOICAの発行元であるJR東海がそれにこだわらずに既存のQR決済に手を伸ばすことで、高コスト設計が指摘されている交通系ICカードの応用力のなさが浮き彫りになった感があります。