伊賀鉄道にICOCA導入 10種の交通系IC利用可に JR・近鉄含む定期券もまとめて1枚でOK

三重県伊賀市と伊賀鉄道は、JR西日本が展開する交通系ICカード「ICOCA」システムの導入を決め、2024年3月に伊賀線の伊賀上野駅〜伊賀神戸駅間全線でサービスを開始する予定です。

ラッピング列車「ふくにん列車 伊賀の四季号」として運行している伊賀鉄道200系電車(とよとみ/写真AC)
ラッピング列車「ふくにん列車 伊賀の四季号」として運行している伊賀鉄道200系電車(とよとみ/写真AC)

かつて廃線も検討…“地域密着”で再出発

1916年(大正5年)、当時の伊賀軌道が現在の伊賀上野駅〜上野市駅間を開業したのが伊賀線の歴史の始まりで、戦後は近畿日本鉄道が運営する「近鉄伊賀線」として親しまれていました。しかし、伊賀線沿線の人口減少やクルマ社会の進展により利用減少が続く中、経営改善を図りたい近鉄は、伊賀市とともに第三セクターの伊賀鉄道を設立し、2007年(平成19年)10月に伊賀線を経営移管しました。

具体的な枠組みは、近鉄が第三種鉄道事業者として鉄道施設の保守管理を行い、伊賀鉄道は第二種鉄道事業者としてそれらの施設を利用して運行を行う「上下分離方式」です。赤字幅を縮小するための収入増加やコスト削減に努めてきたものの、抜本的な収支改善には至りませんでした。赤字の一部を補填する近鉄も民間での負担は困難とし、一時は廃線してバス転換することも検討されました。

存続を求める市民の声を重視した伊賀市は、全線が市内を走行する伊賀線を今後のまちづくりに欠かせない存在と捉え、運営主体として参画して支えていくことを決めました。鉄道事業の再構築計画をまとめた市は、近鉄から鉄道施設の無償譲渡を受けて新たに第三種鉄道事業者となり、引き続き伊賀鉄道が運行を担う「公有民営方式」として2017年(平成29年)4月に再スタートを切っています。

これまで以上に地域密着の交通手段となった伊賀鉄道は、観光資源である「忍者」と連携した施策や、新駅「四十九駅」の設置などにより利用者の増加を図っています。市内の公共交通利用者を対象に実施したアンケートでは「伊賀鉄道に交通系ICカードを導入してほしい」という要望が多かったことから、市は利便性向上のため、JR西日本と連携してIC対応の準備を進めます。

(伊賀鉄道で開始するICOCAサービス、周辺路線図、ICOCA定期券の発行イメージなど詳細は下の図表を参照)

【路線図で解説】伊賀鉄道で開始するICOCAサービス、周辺路線図、ICOCA定期券の発行イメージ

伊賀市内の全鉄道が交通系IC対応に

2024年3月をめどに、伊賀線全駅にタッチして乗降できるIC改札機が設置されます。ICOCAやTOICA、PiTaPaなど、全国相互利用サービスに対応したICカードで伊賀鉄道に乗車すると、チャージ残額から運賃が自動的に精算されます。なお、PiTaPaのポストペイ機能には対応せず、利用はプリペイド方式のみとなります。

伊賀市内では、2021年3月にJR関西本線の亀山駅〜加茂駅間がICOCAエリアに加わっており、すべての鉄道路線でICカードが利用可能となります。市は、インバウンドを含めた観光客が伊賀鉄道に乗り換える際の利便性が向上し、観光客の誘致につながると期待しています。

また、ICOCAによる定期券発行にも対応します。伊賀鉄道線内だけでなく、JR西日本や近鉄など他社の定期券もまとめて1枚のICOCAに搭載することができ、伊賀上野駅や伊賀神戸駅での乗り継ぎがスムーズになります。定期券を含むICOCAカードの購入やチャージは、伊賀鉄道では上野市駅窓口のみでの取り扱いとなります。

なお、伊賀鉄道の定期券情報はカード券面には表示されず、有効区間や期限は別に発行される「伊賀鉄道ICOCA定期券内容控」で確認する仕組みです。これは、地域交通事業者がICOCAを導入しやすいようにJR西日本が考案した簡易な定期券システムで、2021年8月にICOCAを導入した三重県内の四日市あすなろう鉄道や、西日本各地域のバス事業者でも採用されています。

上述のアンケートでは、伊賀市内の高校に市外から通っていた方から「高校3年間、JRと伊賀鉄道の定期を別で買わなくてはいけないのが面倒だった」という意見もありました。観光客だけでなく、普段の利用者の多くを占める通学生も利便性向上の恩恵を受けられそうです。

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