広島電鉄は、現行のICカード「PASPY(パスピー)」に代わる乗車券システムの開発を進めていますが、これによる広島エリアでの新たな乗車券サービスの名称を「MOBIRI DAYS(モビリー デイズ)」に決定しました。
老朽化更新の多額なコストに耐えられず…
PASPYは2008年1月にサービスを開始し、電車やバス、タクシーを含む広島県内の多くの公共交通機関で利用されている非接触型の交通系ICカードです。広電などの加盟事業者で構成するPASPY運営協議会は2022年3月、今後のシステム維持は困難として、2025年3月までにPASPYのサービスを順次終了すると明らかにしました。
理由として上げたのは、機器の老朽化による更新に多額の費用が見込まれていることです。JR西日本の「ICOCA」などと共通基盤を採用しており、運賃計算や情報の読み書き処理は車両に搭載しているリーダー(読取機)が担います。これらを高速で行う性能を持つ機器は価格も高くなり、車両の保有数が多い広電にとって、今後も定期的に発生する巨額の投資は頭の痛い問題でした。
抜本的に解決するため、PASPYのシステム運用も手掛ける日本電気(NEC、本社:東京都港区)と、車載機器で実績のあるレシップ(本社:岐阜県本巣市)との協働で新たな乗車券システムの開発が始まりました。スマートフォンに表示させたQRコードや新たなICカードを認証のための媒体として用いる「ABT(Account Based Ticketing)方式」のシステムで、2024年9月のサービス開始を目指しています。
サービス名の「MOBIRY」は、広電が2020年3月に導入したデジタルチケットサービスの名称でもあり、統一感を出すために採用されました。「DAYS」には、多くの人に日常的に使ってほしいという思いが込められています。デザインには、移動という言葉から着想された「陸・空・海」それぞれの図柄や、交通を連想させる青・基・赤に中間色の紫を加えた計4色があしらわれています。
(広島電鉄の新・乗車券サービス「MOBIRY DAYS」の画面やICカード、車載器のイメージなど詳細は下の図表を参照)
新たな割引サービスを柔軟に実装可能
MOBIRY DAYSの主なサービス内容も初めて明らかになりました。利用前にスマートフォンやPCからの会員登録が必要で、決済に使うクレジットカードや銀行口座もこのときに登録します。
チャージや定期券の購入は、スマートフォンアプリや会員サイトからいつでも自身で行うことができます。チャージ残高が事前に設定した金額を下回った場合にクレジットカードや銀行口座から自動的にチャージを行う「オートチャージ機能」も利用できます。PASPYでの「定率割引」「乗継割引」といった基本的なサービスも引き続き利用でき、障害者運賃や小児運賃にも対応します。
乗り降りの際はアプリでQRコードを表示させ、電車・バスに新たに設置されるMOBIRY DAYS用のリーダーにかざして利用します。ICカードリーダーも併設されており、スマートフォンを持っていない方でも窓口で専用のICカードを発行してもらうことで利用可能となります。
このときのQRコードやICカードは認証媒体としての役割のみに使用され、チャージ残高や定期券区間など利用者ごとの情報はクラウドサーバーに保持されています。参照や更新もクラウド側の処理となるため、機器側では複雑な計算を行わなくて済み、システム全体のコスト低減につながります。クラウド化することで運賃設定の自由度が高まり、これまでにないサービスの実装も容易になります。
広電はこの特長を活かし、「金額式定期券」「特定日割引」などの新サービスについて導入を検討します。電車の一部編成で実施しており好評の「全扉乗降サービス」をバスに展開することも計画しています。また、認証用途として自社発行のQRコード・ICカード以外の媒体にも対応できるため、ほかの交通手段や街中、旅先などでのさまざまなサービスとの連携も期待できるとのことです。
なお、広電グループ以外のPASPY対応各事業者の動きですが、新交通システム「アストラムライン」を運営する広島高速交通は、2024年度から定期券を含めてICOCAを全面採用することでJR西日本と合意し、広電から距離を置いています。その他のバス・タクシー事業者は、広電と歩調を合わせてMOBIRY DAYに対応するかどうかについて、現時点では何も発表していません。
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