JR東日本が発表した2023年度の設備投資計画によると、グループ会社を含む連結で合計7,360億円を投じ、鉄道の安全対策やサービス拡充、駅を中心としたまちづくりなどのプロジェクトを進めます。
羽田〜東京駅直結に既存資産を活用
同社の首都圏エリアでは、駅のバリアフリー化のペースを加速するため、2023年3月18日(土)から「鉄道駅バリアフリー料金」が運賃に上乗せされています。この制度を活用し、駅の安全性を高めるホームドアの整備が重点的に進められます。2023年度は京浜東北線の大宮駅、中央・総武線各駅停車の東中野駅、南武線の登戸駅、横浜線の八王子駅などへの整備が計画されています。
鉄道事業では、東京駅から羽田空港へダイレクトに結ぶ「羽田空港アクセス線(仮称)」の工事に2023年6月に着手します。田町駅付近で上野東京ラインと接続し、宇都宮線・高崎線・常磐線方面からの直通運転も実現します。
アクセス線の整備にあたっては、現在休止中の貨物線「大汐線」や、東京貨物ターミナル内に保有している敷地など、同社の既存資産を有効活用できます。また、空港島内のトンネル工事は国の予算による空港整備事業に位置付けられるため、約12.4kmという路線規模の割には投資額が抑えられ、JRにとってはコストパフォーマンスの良い事業となりそうです。
継続案件として、300km/h運転に対応した山形新幹線の新型車両「E8系」の導入、中央快速線等へのグリーン車導入に向けた工事や車両新造などが2023年度も実施されます。福島駅では、山形新幹線から東北新幹線へ平面交差なしで乗り入れできるアプローチ線の新設工事が引き続き行われます。大規模地震対策や新幹線の降雨防災対策など、安全輸送に対する投資も着実に行うとしています(JR東日本の2023年度連結設備投資計画で発表された投資額、主なプロジェクトなど詳細は下の図表を参照)。
高輪ゲートウェイ・大井町・幕張豊砂で開発案件
東京エリアでは、都市機能を強化する複合型のまちづくりプロジェクトが同時進行します。高輪ゲートウェイ駅周辺にオフィス、商業、住宅などを集積させる「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」の整備が引き続き進められます。2023年3月18日(土)に開業した京葉線の幕張豊砂駅前では、歩行者ネットワークの整備が完了するとともに、2024年春にはホテルが開業予定です。
2023年4月には、京浜東北線と東急大井町線の大井町駅に面した北西部で「大井町駅周辺広町地区開発(仮称)」が本格着工します。ホテル、賃貸住宅、オフィスなどを整備する計画で、現在の東口駅舎を改良し、開発エリアに直結する「広町改札(仮称)」「北口(仮称)」が新設されます。また、国立駅南口では同社グループ初の木造商業ビル「nonowa国立SOUTH(仮称)」の建設工事が行われます。
地方中核都市と連携したまちづくりも並行して行われます。仙台駅の北側エリアと新潟駅では高架下空間を活用し、にぎわいづくりのため商業施設などが整備されます。青森駅では、2021年3月に役目を終えた東口旧駅舎の跡地を活用し、商業や行政施設、ホテルが入る新しい駅ビルの開発が進められます。
「Suicaの共通基盤化」の目標達成のため、拡張性とメンテナンス性に優れた「センターサーバー方式」を採用した新しいSuica改札システムが稼働を開始します。2023年5月27日(土)に新たにSuicaが利用可能となる北東北3エリア(青森・盛岡・秋田)に初めて導入され、他のエリアにも順次拡大されます。
そのほか、「地域連携ICカード」の導入エリア拡大、MaaS(Mobility as a Service)やスマートフォンアプリ、「JRE POINT」のサービス拡充が進められます。また、脱炭素社会への貢献につながる設備投資、メンテナンス体制の効率化など業務改革への取り組みも行われます。
JR東日本は、鉄道運輸収入は今後も、コロナ前の水準の9割程度までしか回復しないと見込んでいます。これを前提として2023年度を「モードチェンジの年」と位置付け、投資の選択と集中を徹底します。鉄道事業は持続可能とするため抜本的な構造改革を行う一方、成長が見込めるまちづくり分野などに積極的に投資し、鉄道との融合を深めながら収益力を確保していく方針です。