東京メトロは、直近の利用状況を踏まえて2023年4月29日(土・祝)に銀座線のダイヤを見直し、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、同線では初めてとなる列車の増発を行います。
「2路線」は柔軟にダイヤ見直し
対象時間帯は平日の10〜15時台と、土休日の8〜20時台で、現在は片道1時間あたり12本の運転本数を15本に増やします。運転間隔は現行は5分間隔ですが、改正後は4本間隔となって待ち時間が短縮します。この増発に伴い、一部の列車については行先や運転時刻が変更となります。
銀座線は日中時間帯においても、1時間あたり20本(3分間隔)という高頻度運転が長く続けられてきました。転機は2022年3月12日に実施されたダイヤ改正で、コロナ禍による利用状況の低迷を受け、日中時間帯は1時間あたり18本(3〜4分間隔)の運転に改められました。
さらに、同年8月27日にも追加のダイヤ改正が実施され、日中の運転本数は1時間あたり12本(5分間隔)へと大幅に減少し、現在に至っています。
コロナ禍の影響は丸ノ内線にも及んでおり、日中時間帯の1時間あたり運転本数は同様に、以前の最大15本から13本、そして12本へと段階的に減らされています。その他の同社路線では、有楽町線で増減便が行われたほか、日中の基本パターンに大きな変化はありません(東京メトロ銀座線の列車増発内容、同社各線の日中時間帯の運転本数推移など詳細は下の図表を参照)。
頻繁にダイヤ改正が行われる銀座線と丸ノ内線は、JRや私鉄線との相互乗り入れを行っていないという共通項があります。自社の車両や乗務員などのやりくりで完結し、他の事業者との調整は基本的に発生しないため、ダイヤに手を加える際の自由度が高い路線です。
回復の鍵はインバウンド?
東京メトロは2020年度決算は最終損益が529億円の赤字で、2004年の民営化以降で初めてとなる赤字を計上しました。翌2021年度は運輸収入がやや持ち直したものの、133億円の最終損失で、2年連続の赤字となっています。一時期はコロナ前の6割程度まで落ち込んだ運賃収入ですが、最新の2022年度第3四半期決算によると、2019年度同期との比較で8割程度にまで回復しています。
経営環境がめまぐるしく変化する中では固定費の見直しが急務となり、列車の運転本数を削減するのは有効手段の一つです。その際、ダイヤに手を付けやすい銀座線と丸ノ内線は同社の経営上、“調整弁”の役割を担っていると言えます。
これまでは減便一辺倒でしたが、ポストコロナの動きに呼応して増便に踏み切ります。ダイヤ組成の柔軟性の高さを活かし、前回のダイヤ改正からわずか8か月というタイミングでの実施となります。
日本政府観光局(JNTO)は、2022年10月に入国制限を緩和して以降、訪日外国人旅行者数は月を追うごとに順調に回復しているとの調査データを発表しています。2023年3月に日本を訪れた海外からの観光客は、2022年10月との比較で約3.6倍に増加しており、コロナ禍以降で過去最高です。
銀座線は渋谷や銀座、浅草など、買い物客や観光客が多いスポットを通っていることから、もともと定期外利用者の需要が高い路線です。今回の増発は、ラッシュ時間帯ではなく日中や休日に対象が絞られており、インバウンドの復活傾向と大きく関わっていると考えられます。