「通勤者の家族にも便宜を」明治から続いた回数券 JR北海道が廃止 歴史120年で絶える

JR北海道は、自社線内完結およびJR東日本線とまたがる普通回数乗車券の発売を2022年11月30日(水)をもって終了します。

JR北海道 札幌駅ホーム(時の記録者/写真AC)
JR北海道 札幌駅ホーム(時の記録者/写真AC)

最初の回数券は1900年生まれ

利用状況や同社を取り巻く経営環境の変化を理由に挙げており、身体障害者用、知的障害者用および通学用の割引回数券を除いて設定を廃止します。発売終了日を過ぎても、有効期間の満了日まではお持ちの回数券を利用することができます。

官設鉄道で初めて「回数乗車券」が発売されたのは1900年(明治33年)11月のことです。主に京浜、京阪神の多客区間に設定され、50券片の冊子式で90日有効、2割引で発売されました。明治半ばに都市が膨張して定期通勤が増えていく中、その家族が都市へ往復する際にも何らかの便宜を与えるべきとの考えから回数券が登場したとされています。その後、回数券は時代に合わせて発売区間や形態が拡充され、第二次世界大戦中の混乱下での一時中断を除き、国鉄、JRへと制度が引き継がれてきました。

本券を設けたのは「蓋し鉄道は一方に於いて定期乗車券を設け切に郊外生活を奨励して居るのであるが、…是等の人々の家族が屡々付近の都会へ往復を要することが生ずるに拘わらず、…何等の便宜をも与えなかったならば却って其発達を阻止するの虞れがあるから」だった (『鉄道之旅客運賃』斉藤忠著、1914年)。

『国鉄 乗車券類大辞典』近藤喜代太郎・池田和政著(JTB、2003年)

JR各社の普通回数券については、JR九州が2021年6月30日付けで発売を終了したのを筆頭に、JR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国の4社が2022年9月30日(金)をもって廃止することを相次いで表明しています。JR北海道も追随することによリ、発売制限のない一般的な普通回数券は全国のJR線から姿を消すことになります(各事業者の回数券終了について詳細は下の図表を参照)。

【図表で解説】各鉄道事業者 回数券を相次いで発売終了

ICポイント還元サービスもなく…

新型コロナウイルス感染症の拡大以降、全国の鉄道事業者で回数券の廃止が相次いでいます。交通系ICカードを活用したポイント還元サービスを回数券の代替サービスとして用意する動きもあり、JR東日本、JR西日本、小田急電鉄がすでに導入しています。また、今秋〜来春にかけて順次、回数券の発売を終了する阪神電気鉄道、山陽電気鉄道、阪急電鉄、能勢電鉄の4社はICOCAによるポイントサービスでの連携を発表しています。

ただし、今回のJR北海道のように、廃止後の受け皿となるサービスのない状態で設定を終了する事業者も多くあります。歴史ある回数券制度ですが、コロナ禍による苦しい経営事情を受け、維持に値しない割引サービスとして切り捨て対象とされているのが現状です。