JR東海は2023年度、グループ全体で6,160億円の設備投資を行い、リニア中央新幹線計画の推進、超電導リニア技術の開発、東海道新幹線と在来線への新型車両投入といった重点施策を実施します。
都市部トンネルでシールド掘進に着手
今年度、JR東海は「新型コロナウイルス感染症の影響が和らぎ、経済全体が回復局面に向かう」と展望しています。一方、コロナ禍による働き方変化や労働力人口の減少といった問題への対応は急務で、ICTなど最新技術を活用した業務効率化、新しい発想による収益拡大の取り組みを本格化させたいとしています。
連結子会社を除く単体の設備投資額は5,860円で、そのうち3,400億円を中央新幹線プロジェクトに投じます。早期開業に向けて測量や設計、用地取得を行い、土木を中心とした各種工事を推進します。健全経営と安定配当を堅持するため、コストを十分に精査しながら柔軟に取り組むとしています。
都市部のトンネルではシールドマシンの組み立てが進んでおり、調査掘進を行ったのち、本格的な掘進が開始します。工事に着手できていない南アルプストンネル静岡工区については、2022年3月に国の有識者会議から水資源問題に関する中間報告が出ています。これを踏まえ、地域の理解が得られるよう真摯に取り組み、環境保全に関する話し合いに丁寧に対応していくとしています。
超伝導リニア車両の開発においても一層のコストダウンが図られます。冷却のための液体ヘリウムなどが不要で構造を簡素化できる「高温超伝導磁石」の開発が進んでおり、営業車両への導入を前提にさらなるコストダウンと安定運用を目指します。また、中央新幹線の開業に向けた機運を盛り上げるため、改良型試験車によるリニア体験乗車をさまざまなかたちで実施するとも記しています(JR東海の2023年度重点施策と関連設備投資、各施策の設備投資額など詳細は下の図表を参照)。
「ひだ」に続き「南紀」にもハイブリッド特急車両
東海道新幹線では、車椅子スペースを6席備えた新型車両「N700S」を4編成、計64両増備するとともに、既存の「N700A」タイプにも改造工事を行ってN700Sの一部機能を追加します。安全のため新幹線全駅への可動柵整備を目指すほか、地震発生時の脱線・逸脱を防ぐ脱線防止ガードの敷設、大規模改修工事による構造物の強化も進めます。
在来線では、ハイブリッド方式を採用する新型特急車両「HC85系」を14両追加投入し、特急「ひだ」に続いて2023年7月から特急「南紀」でも営業運転を開始します。新形式の通勤形電車「315系」も120両増備されます。これらの形式でも車椅子スペースが拡充されており、駅のエレベーターなどバリアフリー設備の整備についても国や関係自治体と連携して取り組んでいくとしています。
ワンマン運転の導入拡大に向け、車両側面カメラによる安全確認の検証を進めるほか、ドア挟まれを検知する画像認識技術の活用も検討します。また、案内センターから遠隔で旅客対応を行う「お客様サポートサービス」の導入駅を拡大し、駅業務の効率化を図ります。安全とコストダウンを両立させる技術開発、高速鉄道システムを米国や台湾など海外に展開する取り組みも継続します。
営業面では、新幹線のネット予約「EXサービス」の利便性向上のほか、沿線自治体やホテル・観光事業者との連携を充実させた「EX-MaaS(仮称)」サービスを2023年秋から開始します。「推し旅アップデート」「貸切車両パッケージ」などの新コンテンツをはじめ、沿線での観光素材の開発、車内や駅でのビジネス環境整備などにより、さらなる需要拡大を狙います。
グループでは、流通事業を運営する東海キヨスク(本社:名古屋市)とジェイアール東海パッセンジャーズ(本社:東京都中央区)を合併し、2023年10月から新会社「JR東海リテイリング・プラス」が発足します。両社は同じ駅構内で土産品や弁当などを別々に取り扱っていましたが、ワンストップで購入できるよう店舗を集約し、地域に根ざした商品展開などで駅の魅力を高めていく方針です。
駅ビルでは、静岡駅「ASTY静岡」、浜松駅「メイワン」などで拡張・リニューアルが実施されます。また、JR東海グループが運営する34の駅商業施設で使える新たな共通ポイントサービス「TOKAI STATION POINT」を2023年10月から新たに開始する予定です。